隠された前提を意識することとしての哲学

法哲学 安藤馨教授

 私が担当する「法哲学」では、20世紀以降の現代的な正義論を扱っています。道徳的理念の中でも、正義は慈善のような理念と対比されます。それをすることが称賛されるものの、しなくても非難はされない慈善とは異なり、それに従わないことが禁止され、それを怠ると非難され、それに基づく実力的な強制や制裁を受ける道徳的要求が正義の要求です。古典的には、法は国家による強制と制裁に裏打ちされた国民に対する要求として理解されてきましたから、法が正当であるということは、法が正義に適ったものであるということだ、と理解されてきました。法のあるべきさまについて批判的な思考を行うことは、そのまま正義を論ずることなのです。

 

 正義論に関する授業を行ううえで、私としてはどの正義論が正しいかということよりは、むしろ「その議論はそもそも成り立っているのか」「隠れた前提は何か」「対立の真の原因はどこにあるのか」などを批判的に見つめる視点こそを身につけてほしいと考えています。授業では、概ね「分析哲学」と呼ばれる方法に従って言葉の定義を一つひとつ積み上げていきますが、その学習を通じて、あるべきルールを巡る他者の議論をフェアに扱い真の対立点を見出す能力を、将来のポリシーメイカーである皆さんに獲得してもらいたいと思っています。

 

 

一橋大学WebマガジンHQ掲載の安藤先生のインタビュー記事が掲載されています。
「隠された大きな前提を見逃さず、顕在化させる法哲学」(2021年12月22日)