法学研究科長からの挨拶

一橋大学大学院法学研究科長
竹下啓介

 一橋大学大学院法学研究科は、リベラルな学風のもとで大学院生の皆さんの自主性を最大限に尊重しつつ、法学・国際関係学の学修・研究に取り組むことができる環境を提供し、先端的・学際的な研究を遂行できる研究者や、高度な知識・能力を備えた専門的な職業人、とりわけビジネス法務に精通し、国際感覚・人権感覚に富んだ人材や、国内外の紛争の予防・解決に適切に対処できる人材の育成を行っております。高い倫理性と責任感を持ち、法学・国際関係学の分野での新しい「知」の創造に取り組み、それを通じて日本社会・国際社会への知的貢献を行うことのできる能力を有する人材の養成を目指しております。

 新しい「知」の創造。法学・国際関係学のあらゆる分野で、自由・平等・平和・公正といった基本的価値に基礎付けられた新たな「知」を創造して、国際化・複雑化の著しい社会的課題を解決するための知的貢献を行うことが求められる時代となっています。一橋大学大学院法学研究科では、学生が、法学・国際関係学に関する社会的課題を発見し、先行研究や他者の見解を適切に理解しつつ批判的に分析した上で、イマジネーションによって新たな「知」を創造するといった経験をすることができるように、学修環境を整えております。教員による論文指導、演習における他の学生との自由闊達な議論、過去の貴重なコレクションを含む膨大な社会科学文献を所蔵する図書館での文献との対話。一橋大学法学研究科には、新たな「知」を創造するための充実した環境があります。

 新たな「知」の創造の鍵は、多様な考え方の尊重と、建設的な柔軟性だと思います。伝統的な「知」を一歩推し進める「知」であれ、より革新的な「知」であれ、新たな「知」の創造ですから、まずは既存の「知」を適切に理解し、存在する多様な考え方から学ぶ必要があります。特に、自分と異なる考え方、自分にとって未知の考え方から適切に学ぶことは、自らの思考を適切に発展させる契機となるはずです。そのためには、多様な考え方を尊重する姿勢が必要となります。また、得られた知見を社会にとって有意義な新たな「知」の創造に繋げるためには、現在の自分の考え方に過度に固執することなく、建設的に変化させる柔軟性も必要となります。特に、イノベーションと呼ばれるような革新的な「知」の創造によって社会に新たな価値を生み出すプロセスにおいて、建設的な柔軟性は必須のものです。一橋大学法学研究科での学修・研究において、学生がこれらの大切さを学び、新たな「知」を創造する能力を涵養することを、期待しております。

 私自身、現在、ハーグ国際私法会議という国際機関の条約を作成するプロジェクトに日本政府代表として参加すると共に、プロジェクト全体の議長を担当しております。世界各国から代表が集まり、各国がそれぞれ多様な意見を表明する中で、多様な意見を尊重しつつ、イマジネーションによって建設的に柔軟に思考を展開し、国際社会に新たな価値を生み出す世界的な条約を構想する。正に、一橋大学大学院法学研究科で学生が学ぶ知的活動を、国際的な社会貢献活動として実施しているところです。

 一橋大学大学院法学研究科で学修・研究した学生の皆さんが、新しい「知」の創造を実現することができる能力を涵養され、法学・国際関係学の研究者として、あるいは社会で活動する専門職業人として、現代社会で新たな「知」を創造することによって、自由と平和の拡大に貢献する活躍をされることを期待しております。また、そのような新たな「知」の創造により多くの優秀な方が関心を持ち、一橋大学大学院法学研究科の門戸を叩かれることを、切に希望しております。

 

 

一橋大学大学院法学研究科長
竹下 啓介