指導教員の言葉を信じて

羽生香織さん
2003年 修士課程修了、2008年 博士後期課程修了。
現在、上智大学法学部准教授。
※以下は、一橋大学キャリア支援室・大学院部門発行のメール・マガジン2011年5月号掲載の「先輩キャリア・インタビュー」(第1回)からの転載です。

 

今回は、法学研究科出身の羽生香織さんに、研究者になるまでのプロセスと、大学教員としてのお仕事に関するお話を伺いました。大学教員・研究者として活躍される先輩からヒントを得て、進路選択や研究活動に活かしていただければと思います。

 

 

羽生香織さんの略歴

2003年に一橋大学大学院法学研究科博士後期課程に入学、2008年3月に同課程修了。博士(法学)。博士論文の題目は、「実親子関係法における子の身分に対する真実主義の限界」。在学時の指導教員は松本恒雄教授。
2008年度には同研究科附属日本法国際研究教育センターにて研究員を務める。2006-10年度に茨城大学人文学部にて非常勤講師を務め、2010年度からは慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部にて非常勤講師を務めている。2009年度より現職。
専門分野は民法、とくに法的親子関係の確定法理。

 

 

女性研究者をめざして

Q:研究職はいつから、どのように志していましたか?

 

A.羽生さん(以下、省略):私は高校時代から漠然と研究職に就きたいなという考えがあったんです。法律のなかで子どもがどのような存在であるのかということにすごく興味があって。でも、法曹の道を考えたこともありました・・・大学1年のとき履修した授業はすべて男性の先生だったんですよ。「ああ、大学には男性の先生しかいないんだな」って思って。そのあと、2年生のときに家族法の講義で初めて女性の先生に出会って、「女性でも大学の先生になれるんだ!」という発見があって、そこからよりいっそう研究職に就きたいという気持ちが強まりました。それが一番転機になりましたね。ほかの選択は考えられませんでした。本当にこの職業が私に向いているのかな?という「贅沢な」迷いはありますが・・・いまは研究に専心できることに感謝しています。

 

 

先生の言葉を受け止めて

Q:研究職への就職が決まった経緯はどのようなものでしたか?

 

A:博士課程のときに東経大でTAをしていたんです。なので、ご縁があったのだと思います。TAを務めることになったのは、私のまえに同じゼミの先輩が東経大でTAをしていて、その方が博士を修了し他大学にご就職されたので、次に私の番が回ってきたためです。私の場合は、指導教員の方針だったのかもしれませんが、とにかく早く論文をまとめるよう言われていたので、先生の言葉を受け止めて、博論に取り組んだことが就職につながったのだと思っています。

 

 

研究の基礎は揺るがない!

Q:博論の提出を優先したということですが、博論を仕上げるまでのプロセスはいかがでしたか?

 

A:博論を仕上げるプロセスは、たしかに研究がうまく進まなかったりということは多々あったと思います。ただ、修士1年の最初の研究指導の際、まず私がこれをやりたいといったテーマではなく、そのもっと基本的な、基礎の基礎のテーマを指導教員が提示してくださったんです。まず基本をしなさい、時が経過しても基本は揺るがないと。今後10年・20年経ったときに社会の情勢は変わるかもしれないけど、その核心だけは揺るがない。まずそこを研究しなさい、と。あなたがいま興味をもっていることについては10年後・20年後にいくらでも研究できる、ということを先生がおっしゃったので、それだけが頼りでしたね。研究過程はひとつひとつの積み重ねなので、その過程のなかでどうしても研究が思うように進まず自信がもてなかった時期もありましたが、指導教員のその言葉が支えになりました。結果的には去年、家族法新人賞をいただいたんです。それは博士論文の一部を加筆修正し、『一橋法学』(日本加除出版株式会社主催「第11回 尾中郁夫・家族法新人奨励賞」、抄録は『戸籍時報』657号に所収。)に載せたものだったんですが、それを評価していただきまして。受賞作品になったことで「ああ、先生がおっしゃっていたことはこのことか」と実感することができたんです。

 

 

授業は週7+1コマ

Q:それでは、いまのお仕事についてですが、授業は週に何コマ担当していますか?

 

A:私は週7コマ、プラス慶應大学での非常勤が1ですね。東経大では、民法のなかの物権法と担保物権法、家族法、1年生向けの法学入門、1年生の入門ゼミです。ゼミ演習もありますし、オフキャンパス・ワークショップといって、現代法学部独自のインターンシップをしているんですが、その授業を毎週担当しています。企業ではなく法律事務所等にインターンシップに行くという独自のものを手がけています。それでもほかの先生とくらべると、まだ私の負担は少ないほうなんじゃないかと思います。そうはいっても、私も授業・ゼミが終わってから研究をはじめるので、帰る時間は遅いですが・・・。

 

Q:専任のほかに他大学で非常勤を担当することはどのように感じていますか?

 

A:専任の大学とはまた違った雰囲気があり、学生の個性も違っておもしろい質問をしてくるので、そういった学生と触れられるというのはありますね。

 

 

もっと勉強しておけばよかった・・・!

Q:最後に、後輩へのアドバイスをお願いします。

 

A:私は大学院のときに、研究職に就職した先輩から「いましかないよ、勉強できるときは」「就職したら時間はないよ~」って、さんざん言われたんですよ。それをいますごく実感しています。もっと勉強しておけばよかったって(笑)。もっと勉強していたら、いまもっと楽しいだろうな、と毎日後悔しています。時間があるのは院生のあいだだけです。いまは本当に時間がないですね。ただ、やりたい研究ができているので、こんなありがたい環境はないと思っているんです。たしかに研究時間をなかなか取れないので状況としては厳しいですが、むしろありがたいと思いながらやっています。

 

 

まとめ

大学教員をめざす方、あるいは興味のある方、いかがだったでしょうか。 研究職に就くためには研究活動をどう進めるか、という視点はもちろん大切ですが、研究活動は就職したあともずっと続いていきます。しかも、研究職に就いてからは授業などの業務の負担が多くなり、研究のための時間を確保するのが難しくなっていきます。ですので、院生の皆さんにはいまある貴重な時間を有効に活用し、自己研鑽に心がけていただきたいと思います。
また、少数の分野を除き研究職はますます狭き門となってきています。しかしながら、自らの志を貫徹し、自分の研究テーマに対して揺るぎない探究心をもつこと、そして指導教員をはじめ、かかわりのある教員や先輩研究者に積極的に助言を仰ぎ、真摯に受け止めることが大切であると、羽生さんのお話をうかがいながら改めて思いました。

 

インタビュアー:佐藤 裕(キャリア支援室特任講師)
(2011年5月31日掲載)