社会人が法学研究科で学ぶということ

K.H.さん(生命保険会社勤務)
2012年 修士課程修了(法学)

 

 私は、修士課程社会人特別選考を受けて、一橋大学大学院へ入学しました。大学を卒業後、約10年間、生命保険会社で仕事をしてきました。そのような時、民法が改正されるというニュースを耳にし、「学生に戻ってあらためて民法を勉強しなおしたい」、「民法改正によって生命保険会社がどのような影響を受けるのか研究したい」と考えるようになり、一橋大学大学院を志望しました。民法改正を審議する法制審議会民法(債権関係)部会のメンバーに、一橋大学法学研究科の教授がいらっしゃったことも一橋大学を選んだ理由の一つです。
 大学院の授業では、自らの専攻分野を中心に、深く学ぶことになります。とりわけ、一橋大学では、少人数の授業・ゼミが多く、密度の濃い教育を受けることができます。私の受けた授業の中には、大学院生4名に対し、教員7名と学生よりも教員の人数のほうが多い研究会方式の授業もありました。一方で、法学部と共同の授業もありますし、法学部の授業を履修することも可能なため、私のように大学卒業後、時間が経過していて、大学院の授業についていけるか不安な人も、基本的な内容から学習しなおすことができます。私は、専攻分野である民法のほか、民事手続法などの法学部の授業を受けて、学部の時の知識をブラッシュアップしました。
 さて、社会人が大学院(法学研究科)で学ぶ意義とは何なのでしょうか。法学研究科は法科大学院のように、法曹への道が開けているわけではありません。中には、研究者への転身を目指す方もいますが、元の職場に復職される方もいます。修士課程の2年間を振り返ってみると、それまでの職務や会社から離れて、自らの立ち位置や会社を取り巻く環境を外部から見つめなおすことができた点が社会人が大学院で学ぶ最大の意義ではないかと考えています。私は、指導教員の先生から、「その意見は、保険会社の立場寄りの意見ではないか」、「保険会社の実務が困るというだけでは、説得力に欠ける。理論面での理由付けが必要」などと幾度となく指摘を受けました。自分では、客観的な立場で意見を述べたつもりでも、やはり、知らず知らずのうちに、生命保険会社の“常識”にとらわれていたようです。一橋大学法学研究科で得た、自分の立場を客観的にとらえ、自らの会社を外部から見ることができたという経験は、私が今後のキャリアを構築するうえで、かけがえのない貴重な財産になると思っています。