教員インタビュー

向 宣明(むかい のぶあき)特任教授

桃尾・松尾・難波法律事務所 パートナー弁護士

略歴

東京大学法学部卒業。弁護士(第一東京弁護士会)。コーネル大学ロースクール修了(マスターオブロー)。一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士後期課程修了(博士(経営法/独占禁止法))。競争法フォーラム 常務理事・事務局長。日本弁護士連合会司法制度調査会・商事経済部会副部会長(独占禁止法関連を担当)。2022年4月より本専攻特任教授。

ゼミ担当分野 経済法(独占禁止法)

担当授業 「競争政策と法」、「公正取引と法」

──これまでの経歴を教えてください。

1996年に弁護士登録をして以来、主に企業法務の仕事をしてきました。弁護士1年生から留学までの間は法律事務所で先輩の仕事を何でも手伝うのが仕事で、その中に独禁法分野の案件も含まれる、という感じでした。例えば、再販売価格の拘束やカルテル事件(刑事)などがありました。米国に留学してマスターを取得し、現地の法律事務所に勤務した後、2002年に帰国しまして、日米の双方で詳細な審査の対象となった企業結合案件や、まだリニエンシー制度が入る前の頃のカルテル事案などに関与しました。同時に、本専攻の前身である経営法務専攻の博士課程に入学し、実務とは別のいろいろな経験を重ねるなかで、リニエンシー制度の導入などもありまして、独占禁止法分野の仕事をする機会が増えました。公取委・独占禁止法研究会などで令和元年独禁法改正に関わったのも、貴重な経験です。2022年から本専攻の教員として「競争政策と法」などの授業を担当しています。

──本専攻博士課程に在学していた時の思い出などを教えてください。

博士論文を決められた期間内に書き上げることが与えられた私の使命でした。言い換えますと、当時は必ずしも通学して授業に出席するということではなかったのですが、その間、月1回のペースで土曜の午後にゼミを開催していただいていて、私の論文のテーマに限らず、独禁法分野のさまざまな素材をテーマに、ご経験やご知見の豊富な先生方の自由な討議を拝聴する機会を得ました。そういった研鑽の機会をいただきながら、テーマを選んで研究を進め、論文を書き上げることができました。

──ご専門分野とそこでの最近の話題について教えてください。

主な分野は独占禁止法で、企業間紛争、国際取引、知的財産権などを扱うこともあります。話題はいろいろありますが、やはり注目すべきはITの技術革新に関する分野でしょうか。例えば巨大IT企業が運営するデジタル・プラットフォームを巡る議論に関して、各社を一括りにして同じような物差しで議論することについて、それぞれ違いや個性があるのでそれらを十分把握して議論する必要があるのではないかという指摘もあり、私もそのように考えています。またSDGsと独禁法との関連も、先日ある場所でお話しする機会もあったのですが、一見分かりやすそうで、その実、立ち入ってみると解決困難な問題を含んでいて、考えていく必要があると思います。

──ご担当の授業について教えてください。

実際の事案を通して学習する、ということを大事にしていきたいたと考えています。私も弁護士として対応する案件のなかで実際に生の証拠にたくさん触れてきました。理屈は事実の上に建つものだと思うのですが、その事実は証拠の上に建っていて、その意味で、重要なのは証拠、あるいはその評価だというのが正直な実感です。その重要な証拠というのは、時に企業にお勤めの方が日々の業務で扱っておられるような社内メールやビジネス文書だったりします。「身近に交わされている内容が、そういった法的な議論につながっている」ということの理解が、皆さんの仕事に役立つような授業を進めていきたいと思います。

──お休みの過ごし方について教えてください。

「50の手習い」というようなことですが、初めてテニスを「習う」ことを始めてみました。妻は幼少期からテニスに馴染んでいたのですが、週末、夫婦共々レッスンを受けています。頭や体を切り替える機会にもなるので良いと思っています。

──学生さんや入学を検討されている皆さんへのメッセージをお願いします。

他の法律と比べて特に何か違うというようなことを言いたいわけではないのですが、私が担当させていただく独禁法は、何が違法で何が適法か、境目がわかりにくいと言われがちであるような気がしています。ただ、理屈や事実だけではなく、事案の中で重要視された社内メールなどの証拠にも目を配りながら勉強してみたときに、学生さんお一人お一人がご自分の日々の仕事の中で経験されていることに引き寄せることができ、さらに、独禁法に関する感覚を自分の中に育てることができると考えています。教科書を読んでもよくわからないと思っている方も生き生きとした感覚で勉強ができるようにお手伝いをしたいと思っています。