法科大学院長からの挨拶

 

 一橋大学法科大学院は、2004年の設立以来、高度な専門知識と幅広い見識をともに備えた多くの法律家を世に送り出してきました。修了生の大部分は司法試験を突破しています。また、修了生の中には専門性を深め、様々な分野で指導的な役割を果たしている人が少なくありません。こうした本学法科大学院の「成功」は、設立以来、指導を担当する教員が入れ替わりながらも受け継がれている、本法科大学院のよき伝統に由来するものであるように思われます。

 その伝統とは、司法試験に合格するための教育とその後の優れた法律家になるための教育を異質のものとは考えず、連続線上に位置づけることにあります。カリキュラムの中核である法律基本科目の教育にあっては、司法試験対応能力を養うことと優れた実務家にとって必要な問題意識の涵養を一体のものとして進めます。基礎法学・隣接科目は、法律基本科目の学びをより深くより豊かなものにする下支えの役割を担います。法律実務基礎科目は、実践的な知見を提供するとともに、基本的事項の振り返り、定着を図ることで、法律基本科目との有機的連携を図ります。展開・先端科目にあっては、文字通り多種多様な分野において、法律基本科目の知識を土台として、法律家としての専門性を高めるための知見を提供します。

 さらに、こうしたカリキュラムの隅々には、本法科大学院がディプロマ・ポリシーに掲げた3つの理念である、ビジネス法務への精通、広い国際的視野の獲得、豊かな人権感覚の醸成が埋め込まれています。この理念は、とりわけ、千代田キャンパスでのビジネスロー・コース、英語による授業や様々な国際系科目、人権クリニックを始めとした生きた人権問題に触れる機会において具現化されています。在学生はこれらのいずれか、あるいはその組み合わせにより、自らの志望に応じて専門性を高めていくことができます。

 2023年には司法試験の在学中受験が始まり、法科大学院の出口は在学中受験と修了後受験とに複線化されます。また入口についても、既存の法学部出身者、他学部出身者、社会人経験者に加えて、法曹コース出身者の受け入れが始まっています。法科大学院生のニーズは一層多様化しています。本法科大学院は中規模校ですので、学生と教員の距離が近く、それでいて似たようなニーズを有していたり、切磋琢磨しあえたりする学友を見つけやすい環境にあります。加えて、ゼミでの指導やキャリア相談などの場面で在学生への支援を惜しまない多くの修了生にも恵まれています。一人ひとりのニーズに適った学修を行える環境です。

 本法科大学院の理念に共鳴し、本法科大学院が用意した環境を活用して、よき法律家への道を歩むことを目指す皆様とお会いできることを楽しみにしています。

一橋大学法科大学院長
本庄 武