一橋大学法科大学院新入生への院長メッセージ
一橋大学法科大学院新入生へのメッセージ
令和2年4月2日
一橋大学法科大学院長
山本和彦
一橋大学法科大学院入学、おめでとうございます。皆さんそれぞれが多くの努力を積み重ね、この入学の日を迎えられたことについて、法科大学院の教職員一同を代表して、心よりお祝いを申し上げます。
さて、一橋大学法科大学院は、開学以来、高い実績を上げてきました。それは、累積合格率が80%を超える司法試験の結果だけではなく、合格後、実際に法律家となった後の修了生の活躍に表れています。我々の教育は、司法試験が最終目標ではなく、その後の法律家としての活躍を目的とし、それを徹底する姿勢をとってきました。そのことが結果として司法試験合格という面でも大きな成果を上げることを実証してきたと言えます。そして、我々の教育の特色は「公助」「共助」「自助」のバランスにあります。「公助」、すなわち教師による授業と学生の予習復習、「共助」、すなわち学生同士が切磋琢磨して少人数の自主ゼミ等を組み、未修者・既修者が一体となって学習を進めること、そして「自助」、学生の自学自習です。ただ、今年度は新型コロナウイルス感染防止対策から、例年とは大きく異なる状況にあることは否定できません。
まず、「公助」の面では、授業のオンライン化という、全く初めての試みが行われます。これは、対面による対話型の授業を中核としてきた法科大学院教育において、大きなチャレンジとなるものです。我々教職員として全力を尽くしていきますが、大学にとっても初めての経験であり試行錯誤とならざるを得ず、皆さんには少なからず勉学環境の不便を来すおそれが否定できません。大学から様々な媒体で積極的に情報発信を進めますので、提供される情報に注意しておいてください。ただ、IT化は世の中の必然であり(裁判のIT化も皆さんが法律家になるころには大きく進んでいるはずです)、それに習熟する機会ともなり得ます。ピンチをチャンスに変えるという発想で、力を合わせてこの難局を乗り切りましょう。
次に、「共助」は、ゼミを重視した少人数教育という本学全体の強みに基づく、わが法科大学院の最大の特色です。しかし、現状では、皆さん同士が直接会って議論することは避けていただかなければなりません。当面は、オンラインやSNS経由など様々な工夫をお願いすることになります。事態が改善した後は、ぜひ積極的に自主ゼミ等の活動に取り組んでいただきたいと思います。そして、その際には、未修者(法科大学院の授業の経験者)と既修者(法学部の経験者)とが積極的に交流し、本法科大学院の良き伝統が、ウイルスに負けず、将来に継承されていくことを心より期待したいと思います。
最後に、「自助」です。これは法律の勉学の基礎であり、そして今の環境下で最もできることです。未修者は法律初学者であり、いずれにしても自学自習の徹底が重要な時期です。既修者も、この機会を活かして、今まで学習してきた知識を再確認するよい機会になりえます。ぜひ将来に向けて、前向きに勉学を進めていただきたいと思います。おそらくこの間をどのように過ごしたかが、2年後・3年後の司法試験の結果も左右すると思われます。今できることを着実に進めておいていただければと期待します。
混乱は永久に続くものではありません。今の困難を乗り越えた先には、必ず光が見えてきます。「夜明け前が一番暗い」と言われるように、絶望して諦めてしまうともうそのあとはありませんが、希望を求めて努力した人には必ず朝が来ると信じます。しばらくはこの状態が続くとしても、必ずやいつかは改善の方向に向かい、入学前に抱いた夢を実現できることを信じて、皆さんが一日一日を大事に過ごしていただくことをお願いし、私のご挨拶とします。