【第一セッション 研究報告】
藤本幸二「贖罪契約Sühnevertragは和解契約か-刑法の公化の観点から」
報告要旨:
本「契約」プロジェクトにおいて予定されている研究の方向性がもつ最大の特徴は、その学際性の高さにある。この特徴を活かし、多面的な考察を総合することにより、「契約」という概念の実像に迫ることが最終的な目的であると考えられる。その中で刑事法学、それも刑事法史を専門とする論者の果たすべき役割は、「契約」に対し概念的なつながりを有する刑事法上の諸法制度を「外から中へ」向かって定義づけ・分類を行い、それをもって「契約」概念のもつ意味的なひろがりの外縁部を明らかにすることにあるだろう。
本報告においてはひとつの事例として、中世から近世初期にかけて刑事事件の紛争解決手段のひとつとして幅広く用いられていた贖罪“契約”Sühnevertragと呼ばれる法制度を取り上げる。故殺贖罪契約に関する最新の研究においては、中世末期以降、裁判官の仲介のもとで締結がなされる事例が増え、また贖罪の条件確定に裁判官が介入し緩和をもたらすケースもあったとされる。さらに、地域の有力者たちが加害者に圧力をかけ、契約の締結を促すこともあったとされる。
これらからもわかる通り、贖罪契約を、近代的な意味における「契約」概念に含みこんで扱うことには俄かには首肯しかねる要因が多い。贖罪契約は、公的刑法が成立する母体となった、私的要素と公的要素が不可分のまま一体となった領域に属している。いわばこれは契約概念の外縁部に位置づけられるべきものであり、字句表現に捉われ、純粋に「私的な」紛争解決手段としてこれを理解することは、契約概念の不当拡張をもたらす可能性があり、慎重に考慮がなされるべきではないだろうか。
報告レジュメ 報告記録
宇野文重「近代日本『雇用契約』に関する研究-研究の現状と課題」
報告要旨 :
近代日本の「契約」概念を研究する素材として、「雇用契約」を取り上げる。近世史における「奉公」とその契約に関する研究の蓄積は厚い。その理由の一つは、近世の「家」においては、奉公人も家長の血縁家族とともにその構成員であったことにある。近代についても明治初期刑法上の「家長-雇人」関係についての研究等は存在するが、債権法としての雇用契約研究となるとごく僅少である。本報告では研究の現状と報告者の問題意識を示した上で、「明治前期の裁判資料」および「民法典編纂過程における法学者の議論」を素材とする今後の研究方法について論じたい。
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ディスカッション
【第二セッション 『自然主義の人権論』批評会】
内藤淳「本セッションの趣旨説明」
概要:
広く知られている通り、近代以降の法理論は、自然法思想における自然権概念や社会契約論の影響を強く受けている。『自然主義の人権論』はこのうち自然権概念に基づく従来の人権理論を見直し、自然科学を含めた新しい観点からの人権論を提唱するものだが、こうした考え方は「社会契約」やそれに基づく国家や法の理解にも必然的に影響する。その点の研究を今後、本「契約」研究プロジェクトの中で進める方針だが、その手始めとして、本書での議論を倫理学や法哲学及び自然科学(心理学)の研究者から批評・コメントしてもらい、その課題や問題点を明らかにする。
趣旨説明記録
コメンテーター(敬称略):
古茂田宏(倫理学/一橋大学大学院社会学研究科教授)
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伊藤克彦(法哲学/一橋大学大学院法学研究科博士課程)
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平石界(進化心理学/東京大学総合文化研究科助教)
コメント記録
ディスカッション
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