プロジェクト期間: 2002年4月1日~2007年3月31日
グローバリゼイションが進展しつつある現代社会にあっては、人や物の交換、貨幣や情報の交流が飛躍的に増大している。
政治、社会、経済、法などのあらゆる分野が地球規模で展開し、地域や国家の枠の中にあった人々が相互に出会い、交渉し、協力する。
グローバルに繰り広げられる、人々の出会いと協調が国際社会を国際共同体へと変ええつつある。
しかし、その一方で、人々が対立、抗争する場面も少なくない。
経済紛争、地域紛争、民族紛争が頻発し、宗教戦争や文明間戦争まで生じかねない状況すら生まれつつあるかに見える。
大規模な正と負の相互交渉が始まっている。
この交渉は、しばしば、暗黙であったり明示的であったりするが、相互の意思の合致によって、あるいは意思の合致を求めて推進される。
この意思の合致すなわち合意が「契約」である。
「契約」は西欧におけるように明確な合意のもとに成り立つこともある。
しかし、グローバル化した世界のもとでは、そもそも「契約」する人々の背後に様々な文化があり、意思の不整合がもたらされことも少なくない。
最近の様々な法的・政治的紛争は、グローバル化した世界であるからこそ発生する。
そのようなグローバルでグローカルな世界では、約束や合意の文化的含意を探ることがとりわけ必要になる。
頻発する法的・政治的紛争を根源的に理解すること、そのことによって現代の重要問題を解決すること、これがいま人類にとって緊要の課題となっている。
第5プロジェクトは、このような共通認識のもとに「契約の比較法文化史的研究」に携わっている。
- プロジェクト・メンバー(順不同)
- 西村幸次郎(一橋大学大学院法学研究科教授)
- 山内進(一橋大学大学院法学研究科教授) = プロジェクト長
- 森村進(一橋大学大学院法学研究科教授)
- 青木人志(一橋大学大学院法学研究科教授)
- ジョン・ミドルトン(一橋大学大学院法学研究科助教授)
- 屋敷二郎(一橋大学大学院法学研究科助教授)
- 小田博(ロンドン大学ユニヴァーシティ・カレッジ教授)
- 岩谷十郎(慶應義塾大学法学部助教授)
- 小林正典(和光大学人間関係学部助教授)
- 鳥澤円(広島市立大学国際学部専任講師)
- 石塚迅(日本学術振興会特別研究員)
ゲルハルト・シュック(フランクフルト大学文学博士)
一橋大学国際共同研究センター第5プロジェクトでは「契約の比較法文化史的研究」をテーマに共同研究を進めている。
このたび、現代社会における契約のあり方について考察し、議論することを目的としてシンポジウムを開催することとした。
周知のように、契約は古代社会から人類の歩みとともに存在し、またそのあり方を変えてきた。
それは、社会つまり人間環境全体との関係のなかで、さまざま形態をとってきた。
言い換えると、人間環境全体が変わると、契約のあり方も変わってくる。
21世紀のはじまったいま、世界、アジア、日本は相互関係のなかでも、内部的にも大きな変革を迎えつつある。
そのような状況のもとで、契約はどう変わりつつあるのか、あるいは変わるべきなのか。
それは、社会や国家、国際関係の変化とどうかかわるのか。
このような問題を考えるために、三人の先端的研究者に報告をお願いし、契約の最前線の問題を考えることにした。
多くの方の参加を期待する。
- 日程 2003年5月23日(金)午後1時30分~5時30分
- 場所 一橋大学国際共同研究センター1階多目的ホール(一橋大学小平国際キャンパス内)
第1報告(1時30分~2時30分)
堀川信一(一橋大学大学院法学研究科博士課程)
テーマ: 契約法における「給付の均衡」法理の位置づけ
―莫大損害・合意の瑕疵・瑕疵担保法の相互関係をめぐって―(仮題)
報告要旨
人が生活を維持するために財貨を交換し合う限り、そこには「正しい交換とはなにか」という問題が常に生ずる。
近代法は、この「正しさ」を契約当事者の主観にゆだねた。
しかし、ヨーロッパの法伝統においては、自明のこととしてこれとは反対に給付交換の正当性が
「客観的」に決定されるべきであるとする考え方も存在した(契約正義論)。
こうした思想に立脚する制度が「莫大損害(laesio enormis)」である。
今回の報告では、この莫大損害に現れる「給付の均衡」法理が、かつてヨーロッパ契約法の中において
どのような位置づけがなされていたのかという点について検討する。
具体的には、莫大損害と詐欺、錯誤の関係、または、売主の瑕疵担保責任に関する規定との関係について検討する。
これらを検討することによって、契約自由の原則とは異なったもう一つの原則である契約正義にのっとった
契約法の理解のきっかけを提供することができるのではないかと考える。
第2報告(2時30分~3時30分)
有馬奈菜(一橋大学大学院法学研究科博士課程)
テーマ:契約締結過程の瑕疵についての効果に関する問題(仮題)
報告要旨
今日の取引においては、契約そのものについてのトラブルばかりでなく、契約締結過程におけるトラブルも頻繁に生じている。
契約締結過程に瑕疵があった場合の効果としては、契約からの離脱と損害賠償が考えられる。
近時成立した金融商品販売法においては説明義務違反の効果として損害賠償が定められているが、
全体的には、契約締結過程に瑕疵があった場合の効果としては、契約からの離脱が問題とされることが多く、
同じく近時成立した消費者契約法においても、誤認・困惑による契約締結という契約締結過程の
瑕疵の効果としては取消が定められているのみである。
契約締結過程に瑕疵があった場合において、適切な解決を導くための方法について、
契約関係からの離脱と契約を維持した上での損害賠償をともに考慮に入れ、より適切な効果を導く必要があるであろう。
休憩(3時30分~3時50分)
第3報告(3時50分~4時50分)
王晨(大阪市立大学助教授)
テーマ: 中国契約法の現代化
共同討論(4時50分~5時30分)
コメンテーター 滝沢昌彦(一橋大学大学院法学研究科教授)
シンポジウム終了後、キャンパス内の食堂で懇親会を予定しています(5時50分~7時30分)。
こちらにも、ふるってご参加ください。会費2000円程度。