民主主義・人権プログラム
ラリー・ダイアモンド『侵食される民主主義』(勁草書房)刊行記念イベント
日にち2022年3月17日
時間12:00-13:00
開催場所オンライン
イベント概要

グローバル・ガバナンス研究センターは2022年3月17日、『侵食される民主主義』(勁草書房、市原麻衣子監訳)の著者であるラリー・ダイアモンド教授をお招きし、刊行記念イベントをZoomにて開催しました。本書全般、現在のロシア・ウクライナ情勢、そして日本の読者にとって本書が持つ意義に関する議論が行われました。

ダイアモンド教授はまず本書を執筆するに至った背景について、「世界で起こっている民主主義の深刻な危機に人々の目を向かせるために本書を執筆した」と話しました。そして原書の副題であるSaving Democracy from Russian Rage, Chinese Ambition, and American Complacency(訳:ロシアの怒り、中国の野望、アメリカの自己満足からいかに民主主義を救うか)にも言及し、それぞれの具体例を紹介しました。参加者にとっても大きな関心事であるプーチンのウクライナ侵攻については、ロシア政府があのような行動を取ったことは驚きではなく、「プーチンが軍事力増強、諜報活動、偽情報拡散などを行っていたことからも、これが民主主義にとってのみならず国際安全保障にとっても大きな脅威になることは明らかであった」と述べました。

続いてウクライナ侵攻における日本の役割に関して、ダイアモンド教授は「日本がより積極的に民主主義を守り、権威主義者の暴走を抑止するべきだと主張しました。具体的には、日本がより強固な防衛態度を示し、アジア太平洋地域における平和と他の民主主義諸国との連携を確保するために積極的な役割を果たすことを期待している」と言及しました。しかし、アメリカがこのまま民主主義の侵食につながるような道を歩み続けてはならないとも指摘しました。その上で、参加者からは民主主義の侵食や権威主義の台頭に関する質問があり、その中には日本の学術界における重要人物も参加していました。

 

【その他引用】

以下に、イベントで見られたダイアモンド教授の特筆すべき発言をご紹介します。

  • 「著者の作品を他言語に翻訳することほど、著者への多大な敬意はありません。」
  • 「将来、日本は民主主義の名において非常に重要な国となるでしょう。」
  • 「私が本書を執筆したのは、何よりも世界における民主主義の危機が深刻化している事態に注意を喚起するためでした。」
  • 「私はロシアがウクライナを侵略するとまでは予期しませんでしたが、プーチンがヨーロッパにおける怒りと不安に満ちたリーダーになっていることは分かっていました。」
  • 「プーチンが軍隊を編成し、インテリジェンスと情報操作の力を高めていたことが示す通り、これは民主主義だけではなく、国際の安全に対する脅威でもあります。」
  • 「私は重要な概念である『シャープパワー』をご紹介したいと思います。これはハードパワーとソフトパワーの中間に位置する概念です。」
  • 「『目覚め』のためには、アメリカがいかに現状に満足してしまっているかを認識しなければなりませんが、これについては後れを取っています。」
  • 「我々はフーバー研究所において、中国が技術的知識を収集し…それを軍事目的に使用すべくエージェントを送り込む幅広い手法について、記録しています。」
  • 「大国による他国の主権への影響力拡大や直接支配を目的とする侵略行為は、第二次世界大戦後初めてのことです。」
  • 「重要な動機の一つとして、彼(ウラジーミル・プーチン)はかつてソビエト連邦の一部であり、ロシアが文化的に切り離せない関係にあると考える大国が、独立した民主主義として国境に存在することに脅威を感じていることが挙げられます。」
  • 「香港にいる民主派は、分離主義や独立を語るという大きな間違いを犯してしまいました。それは状況を悪化させるだけでした。台湾は現状をいかに維持していくかを入念に考えるべきですが、長い目で見ると、それだけでは十分ではないでしょう。」
  • 「日本、オーストラリア、アメリカ、台湾、韓国には深い教訓があります。私は、これがクアッドにとって、アジアにおけるパワーバランスの維持という観点で重要な契機であり…中国が台湾に対して軍事的に恐ろしい事態を引き起こすことを抑止するために、クアッドの防衛力強化を望んでいます。」
  • 「ウクライナに関する誤算は、傲慢で権力を追求する権威主義的な指導者がそのような行動を取らないと思い込んでしまったことでした。」
  • 「9・11以降、ウクライナ侵攻に対するアメリカの対応ほど、国内でこれほど超党派の支持を集め、民主・共和両党の団結を生んだ問題は他にないでしょう。」
  • 「日本にとっての教訓は、第一に、中国のシャープパワー行使という観点から弱点を探知し、それに対して必要な解毒剤を用いることが非常に重要だということです。解毒剤としては、根本的な透明性や、制度の資源・完全性確保などに関する意識を高めることが考えられます。」
  • 「第二に、日本がより強力な防衛態度を示し、アジア太平洋地域における平和、および他の民主主義諸国との連携を確保するために積極的な役割を果たすこととを期待しています。より強い日本は不可欠な要素でしょう。」
  • 「テクノロジーは善にも悪にも使うことが可能です。テクノロジーは民主派の蜂起に非常に重要でしたが、過去10年間では民主主義に負の影響を与えてきました。」
  • 「主な問題は、アルゴリズムが憎悪、怒り、噂、あるいは反社会的行動の誘因となることです。それは、感情的な陰謀論を喚起するメッセージが戦いを誘発させるためです。」
  • 「我々にはソーシャルメディア企業が必要です。それは、風評被害や憎悪を助長しないため、そして民主主義を悪化させるのではなく促進させるためです。」
  • 「中国とロシアが民主主義国家の台頭にどれほど不安を感じているかは、それほど遠くを見る必要はないでしょう…」
  • 「私は象徴や挑発に地政学的資本を費やすべきではなく、抑止力を高めるべきだと考えています。かつてセオドア・ルーズヴェルトは、『穏やかに話し、大きな棒を運ぶ(大口を叩かず、必要な時だけ力を振るう)べきだ』と言いました。我々はそのように軍事能力を高める必要があります。」
  • 「我々は今、世界史の中で極めて重要な瞬間にいると思います。著書の中で、私はその瞬間に差し掛かっていると主張し、それはまさにウラジーミル・プーチンがウクライナを侵攻した2月24日に訪れました。今日の事態は自由の転機となるかもしれませんが、我々はこの失敗から学ばなくてはなりません。」

 

【イベントレポート作成】
ハニグ ヌニェズ・サスチャ(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)
【翻訳】
菅原由梨子(一橋大学大学院社会学研究科 修士課程)
土方祐治(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)

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