一橋大学大学院法学研究科法学部

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勉強に耐える力が身についた

Uさん
2003年3月に一橋大学大学院法学研究科修士課程(専修コース)を修了し、同年4月より証券会社に勤務。入社後は個人・中小企業向けの金融商品の販売(営業職)、2004年から法務部にてコーポレート・リーガル、2008年から経営企画部にて中長期戦略策定、2011年から上場企業への財務戦略・M&A戦略提案(営業職)を担当。修士課程での専攻は、公共関係法。

※以下は、一橋大学キャリア支援室・大学院部門発行のメール・マガジン2011年10月号掲載の「先輩キャリア・インタビュー」(第6回)からの転載です。

今回は、法学研究科出身のUさんに、現在の会社に就職するにいたった経緯や、院での学びがどのように仕事で役に立っているかについてお話を伺いました。修士課程修了後に民間企業で活躍する先輩からヒントを得て、進路選択や就職活動に活かしていただければと思います。

※以下、Q&A形式を取りますが、メールマガジンの作成の過程で編集を加えております。


【院進学の目的は「勉強する」こと】

Q:まず大学院進学の経緯から教えていただけますか?
A:学部時代に体育会に入っていたので、こういってはなんですがまったく勉強してなかったんですね(笑)。でも、本当は部活が忙しかったというわけではなくて、講義を聴くのがあまりおもしろくなくて勉強する気がありませんでした。ですが、3年生のときにゼミに入ってはじめて勉強がおもしろいなと思えたんです。それで、4年生になって大学院への進学を考えました。私のときは法学研究科も研究者養成コースと専修コースというのがあって、進学当初から就職のつもりだったので専修コースに入りました。大学院ではなにか特定のことを研究したかったというよりも、なんでもいいから勉強したかったというのが正直なところでした。

Q:勉強したくて院に進学したということですが、大学院ではどのように研究に取り組まれましたか?
A:大学院での目標は、とにかく単位をとれるだけとろうということでした。大学院は公共関係法専攻だったのですが、公法にかぎらず私法も含めてやれるだけやろうと思い、学部生並みに1年間で62単位取りました。そんなに必要じゃないんですけど。それから、将来就職すると決めていたので、実務に役に立ちそうな科目を集めた企業法特別プログラムというものにもチャレンジしました。でも、そもそも基礎知識が圧倒的に足りなかったので、正直厳しかったです。学部時代に履修したことのない分野のゼミに大学院で参加したんです。とにかく基礎知識がない分、次の授業の準備をするだけで精一杯でした。結局M1の1年間、平日はずっと3時間くらいの睡眠で勉強しましたね。院進学の目的が勉強することだったので、1年間はとりあえずやれるだけやりました。

Q:M1のときは自分なりに目標を立てて勉強に励んだということですが、就職活動はどのように進めましたか?
A:勉強しようと思って大学院に入ったのにリズムが崩れちゃうので、就職活動は邪魔だと思っていました(笑)。だから、序盤戦はなかなか就職活動に本腰が入らなくて。M1の2月くらいまではなにもせず、3月くらいに情報収集をはじめて、面接に行くようになったのが4月に入ってからだと思います。就職活動の当初に行きたいなと思っていたのは外資系のコンサルティングだったんですが、ほとんど採用選考が終わっていましたね。投資銀行も終わっているところもいくつかあるなど、ちょっと出遅れました。

Q:「序盤戦は」とおっしゃっていましたが、途中でモードを切り替えたということでしょうか?
A:そうですね。就職活動もやってみたらけっこうおもしろいんですよ。いろんな会社に行っていろんな人たちと、大学院とは違う話ができる。内定が出たのはゴールデンウィークが明けたくらいだったと思うんですが、就職活動がとても楽しくなったので、内定後も続けていたんです。いま入っている会社に不満があったというわけではないんですけど。院生の皆さんも、内定を取ることだけを就職活動の目的とするのではなく、いろんな人と話をすることを楽しんでみたらよいのではないでしょうか。そうすれば、就職活動が思うようにいかなかったときでも、「違うカルチャーで仕事をしている人と話ができるチャンスが増えてよかった」と前向きに捉えられると思いますよ。

Q:内定が出たのはゴールデンウィーク明けということですが、そのあと修論の取り組みはいかがでしたか?
A:就職活動にのめりこんでしまった結果、7月くらいまでは本格的に取り組めなかったですね。理由のひとつは、勉強に対する集中力の問題です。M1のときギュッと詰め込んでやっていた分、就職活動のあいだに勉強への意識が抜けちゃって・・・。修論についても、「次のゼミで発表しなきゃいけないけど、このまえはなにを議論したんだろう」という状態になってしまいました。そして、もうひとつは生活リズムの変化ですね。M1のとき3時間睡眠とか本当に厳しい時間で勉強していたのに、就職活動をするとそうもいかなくなっちゃって・・・。なかなか7月くらいまで調子を取り戻せなかったんですよね。そのため、修論はスタートが遅れた分、不満の残る結果となりました。本格的な研究論文を書くのは初めてなわけですよね。書いていく途中、調べていく途中で、当初想定していた内容や結論と違う方向になっていくこともあるわけで、結局、最終的な形にするところで十分な研究にならず、時間切れになってしまった感じがすごくありました。

【仲間を尊敬する組織で働きたい】

Q:M1のときに厳しい生活時間で勉強していた状態とギャップが大きすぎただけに、リズムを取り戻すのが大変だったということですね。就職活動の話に戻ってお聞きしたいんですが、最初は外資系のコンサルティング会社を考えていて、そのあとはどのように就職活動を進めていったのですか?
A:そうですね。最初は「なんかかっこいいから」というのと(笑)、「知識はないけど、せっかく大学院で勉強しているんだから考える力だけはあるかな」と思ったので、考えることそのものが付加価値を提供する仕事をイメージしていました。ただ、外資系のコンサルティングの一部はギリギリ間に合って受けることができたんですが、行って話をしてみたら、どうもこの人たちと仕事をしたいなとは思わなかったんです。職場よりも職務に対する思い入れのほうが強い人たちだなと感じたんですよね。私は自分ひとりでできることはかぎられていると思っているので、職務に対する思い入れだけではなく、仲間を尊敬しながら一緒に仕事をするような組織がいいなと思っていたんです。小学生のときには剣道をしていたんですが、一人でやるスポーツがつまらなくて、バスケットボールという団体スポーツに転向したんですよね。だから、個人プレイというよりは、一緒にいる人をリスペクトするような組織がいいというのがありました。そういったかたちで自己分析しながら、メーカーからシステム系の会社、ベンチャー系の会社から大企業と、業種・規模をとわずいろいろ行きました。就職活動のスタートが遅かった分、短期間で集中的に訪問してみました。学部生とくらべるとそんなに多くはないんでしょうけど、何社行ったか数えられないぐらい行きましたね。

Q:そのなかで最終的にいまお勤めの会社に決めたのはどういう経緯だったのですか?
A:ひとつは、営業がしたかったというのがありました。営業して社会のいろんな人たちと向き合って話をしていきたいと。大学院でのディスカッションは楽しいんですけど、ひとりで研究している時間ってつらいですよね。その反動なのかもしれないですけど、いろんな会社の人たちに会って話を聞いたなかで、「営業がしたいな」とどんどん思うようになりました。一方、私は法律にこだわらずに勉強がしたくて大学院に行ったので、法務をやりたいとか、法律で一生仕事をしていくつもりはなかったんです。でも、大学院修了ということになるので、少なくとも当時は日本企業のほとんどが法務枠での採用でした。それで、営業職採用があってさらに大学院生を普通に採ってくれるところというと、当時は商社と証券会社でしたね。もうひとつの経緯は、いまの会社の人に会ったとき、この会社をよくしようというのが伝わる人たち、すごく会社が大好きな人たちがたくさんいたんです。そういう想いを感じて、この会社がいいなと思いました。本当はある商社に行きたいなと思っていたら最終面接で落ちたというのもあるんですけど(笑)、いまの会社に入社することには満足していました。

Q:「営業をしたかった」というところをもう少し詳しくお聞かせいただけますか?
A:将来独立したかった、起業したいなと思っていたので、いろいろなビジネスで成功している人たちとのやりとりのなかからそのエッセンスを吸収するため、まずは営業をする必要があると思ってました。いまの会社に入った当時はずっと勤めるつもりは全然なくて、転職をしながら新しいスキルを身につけて、最終的に独立してビジネスをするということを考えていました。起業に関して具体的な事業内容のイメージがあったわけではないんですが、なにか大きいことがしたいという思いが漠然とありました。

【勉強勉強の毎日】

Q:それでは、実際に入社してみていかがでしたか?
A:こう言ったら失礼かもしれないですけど・・・高校から大学院まではロジカルに話をしたらわかってくれる人たちばかりと接していたわけですよね。でも、入社して最初に担当した個人や中小企業のお客さま向けの営業では、論理性はどうでもいいんですよ。それに気づくまでけっこう時間がかかって・・・そのギャップにはちょっと苦しみました。営業に配属されたとき自分では「できる」と思っていたのに、簡単には営業成績は伸びなかったんです。途中で「お客さまに好きになってもらうことでビジネスがはじまるんだな」というのがわかるまでは・・・。これは、営業としてお客さまのビジネスの話を聞くこと以上に大きな勉強でした。

Q:最初の1年目のご経験についてだと思いますが、その次に「行きたいわけじゃない」法務部に異動になったということですよね?
A:はい、この異動には非常に不満でした。担当役員にも「法務部に異動できてよかったな」と言われたんですが、「よくねえよ」と。さすがにそんな言い方はしませんでしたが、「営業がやりたくてこの会社に入ったんです」と文句を言いながら異動しましたね(笑)。法務部では会社法が中心になるんですけど、学部・大学院をつうじて会社法は履修してなかったんです。そういう意味ではまた経験・知識とも新人としてのスタートでした。でも、大学院に行って学んだことは「勉強する」ということだったんですよね。勉強のしかたとか、勉強に耐える体力というか(笑)。そういう「考える体力」、それと、いわゆる「リーガルマインド」が活かされたと思います。先生方のおかげもあり、大学院では知識を詰め込もうとする勉強はしなかったものの、「リーガルマインド」はけっこう身についたと思うんですね。たとえば、判例を評価するというゼミに参加していたんですが、判例を評価するための基本的な考え方や知識もないなかで、本質的に考えてどちらがいいんだろうか、悪いんだろうかというのを毎回毎回考えました。高度な知識を学ぶというのは大学院の目的でもあると思うので、院生の勉強のしかたとして正しくないのかもしれないんですけど・・・それでも、まわりの人があたたかく見てくれたおかげで、結果的に「リーガルマインド」が身についたんだと思います。これは、私にとってはすごくよかった。だから、会社でリーガルな判断を求められるとき、「本質的にこうあるべきだ」と考えることができ、それにむけて弁護士を説得したりすることができたんだと思います。その結果、弁護士の人たちとの信頼関係もできましたし、会社でも認められていい仕事を担当させてもらえるようになりました。そういう意味で、法務に異動したことで結果的にはすごくよかったかなと。4年間もいたくはなかったんですけど(笑)。

Q:結果的に一番長くいらっしゃったのですよね。その次に経営企画部に異動されたということですが、これはご自身の希望ですか?
A:経営企画部に行きたかったわけではないのですが、もう飽きたから法務部から異動させてくれと(笑)。2年でやれることはやったと思ったので、そのあと2年間は異動させてくれと言い続けたんです。じつは、行きたい先はいま所属している部署――投資銀行として、上場企業向けに提案活動をする営業――だったんですね。でも、いまの部署に異動するまえに経営企画に異動になりました。外資系の投資銀行などに勝てるよう、注力すべき事業分野の選択をして必要な機能の買収をおこなったり、2008年以降の金融危機への対応策としてリスク管理のあり方を考えたり、そういう仕事をしました。

Q:ようやく今年の4月からやりたかった仕事に就くことができたということですが、そのまえに経営企画を経験したというのは、ご自身にとってはどんな意味がありましたか?
A:経営企画への異動も非常に不満ではあったんです、ビジネスがしたかったので。でも、経営企画は投資銀行出身者ばかりのチームで、それまでに経験した個人営業・法務部門とはカルチャーがまったく違ったんですね。しかも、非常に優秀な人たちと仕事ができて勉強になることがたくさんありました。当時は2008年以降の金融危機の影響で、会社が保有する金融商品が会社の損益に与える影響が非常に大きくなっていました。その損益をいかに抑えていくかについて理解して、経営陣と議論しなければいけませんでした。だから、「大学院の経験で活きたことは?」と問われると、やっぱり体力です。「考える体力」という意味で。寝ないでずっと考えるとか、寝ないで仕事をするという体力ですね。経営企画にいた間ちょっと大きなプロジェクトがあって、土日もなく毎日ずっと3時間くらいしか寝ずに仕事をしていました。それに耐えられたのも大学院の経験があったからかなとは思うんです。つらい状況って経験していないと乗り越えられないと思うので、やっぱりM1のときにがんばったのがよかったな、と。がんばった経験というのは私のなかでかなり美化されていると思いますけど(笑)。

Q:ご自身でそのように実感できていることが大切ですよね。ところで、いまようやく念願の部署に異動することができたということですが、いまの部署を望んでいたのはどうしてですか?
A:理由は2点です。まずひとつには、大企業への提案をつうじて世界をよいほうに大きく変えることができると信じているからですね。資金調達でいえば、企業に対して積極的なビジネス展開を後押しすることができます。M&Aでいえば、たとえば大手携帯通信事業者のうち1社は、もともとPCソフトの流通事業者でした。それが英国の携帯通信事業者を買収して、いまは業界を大きく動かしています。そしてもうひとつは、せっかく大学院をつうじて考える力を身につけたのですから、考えたものを理解してもらえる人に話をしたいということですね。考え抜いて提案した内容を理解して受け入れてくれる可能性があるのは、やはり大企業のお客さまになると思っているからです。とはいえ、まだまだ知識が足りなくて。営業なので大きなビジネスができたら、「やりたいことができている」という実感が出てくるのかなとも思いますが、いまはまだ途中段階ですね。

【会社をもっとよくしたい】

Q:ところで、就職活動の時期に将来起業したいと思っていたということでしたが、いまはどのように考えていらっしゃるのですか?
A:起業したいという気持ちはほとんどなくなってしまいましたね。というのも、早くに経営企画に行ってしまったので、お客さまをよくしようというより、この会社をどうやったらよくできるかを考えるほうに意識が向くようになったんです。3年も会社の経営のことを考えると、会社を好きになってしまうんですよね(笑)。実際にいろんな部署に行ってみると、まだまだ私が学べることはあるし、会社にも改善点はたくさんある。また、私が個人でできることよりも会社をつうじてできることのほうが大きいと思うようになりました。だから、起業したいとはもうあまり思ってないです。法務部にいたころは「異動させてくれないなら転職しよう」と思っていたんですけど。私のような異動をするのは会社のなかで一般的なキャリアではないんですが、異動もさせてもらえたし、周囲との信頼関係もできて仕事もしやすくなったし、まだまだこの会社でやれることはあるかなと思っています。

Q:いま念願の部署に異動してまだ途中段階だとおっしゃっていましたが、将来的にどのような仕事をしていきたいと考えていらっしゃいますか?
A:いまの部署でやれることはいくらでもあるし、新しい知識もつねに必要とされるので、当面飽きないと思います。ですが、将来的にはこの4月まで所属していた経営企画部門に行きたいと思っていますね。いまの部署に来て、組織やしくみが悪い、あるいは機能が足りない部分がまだまだあるように感じています。方向性やしくみなどをちょっと変えるだけで、あるいは機能を追加するだけでもっと会社全体がよくなるかもしれない。もっとこの会社がよくなれば、もっとお客さまによいことができ、世の中にもよいことができるわけです。ちょっと話は変わりますが、転職が激しい業界なので優秀な人材が辞めたりするんですよね。でも、給料が高い外資系投資銀行よりも、日系のこの会社のほうがお客さまに信じてもらいやすいと思うんです。お客さまに信じてもらえるならば、世の中のためにも、自分の経験のためにもできることが多い。優秀な人材が将来この会社を使ってもっといいことができるように、もっと気持ちよく効率的に働ける組織にしていきたいと思うんですよね。

【勉強できる時間は大学院しかない】

Q:それでは、最後に後輩へのメッセージをお願いいたします。
A:研究者志望ではなく、就職しようと思っている人にかぎっていえば、これほど勉強できる時間は、大学院を出たらたぶん一生ないと思うんですよね。いましかないですから、この大学院時代に本当に勉強してほしいなと。自分の研究だけじゃなくて、なんでも勝手に型にはめずにやったほうがいいかなと思います。会社員になると仕事に関係する勉強だけで精一杯なので、研究以外のことでもなんでもやったほうがいいと思います。それと、人脈ですよね。大学院で会う人は優秀な人たちが多くて、それはやっぱりすごく大事かなと思います。私は同じゼミの人だけじゃなくて、いろんな授業で知り合った同期とはいまでもよく会っています。余計な話ですけど・・・私は大学院に行ってよかったと思ってるので、じつは妻にも大学院に行くように勧めたんですよ。実際に大学院に行った妻からは「あなたの記憶は美化されている」って言われますけど(笑)。

まとめ

「勉強がしたくて大学院に入り、大学院で勉強する力が身についた」と何度も力強く語るUさんが印象的でした。
つねに勉強の日々とおっしゃっていましたが、異動当初は不満だった仕事でも「いい経験になった」とふり返っていたように、Uさんは「経験から学ぶ」という学習姿勢ももっているのだと感じました。

また、Uさんだけでなく就職したOB・OGの方から、「早くに内定をとっても就職活動で受けた刺激が強くてなかなか修論に集中できず、最後の追い込みまで大変だった」というお話をよくうかがいます。これから就職活動をはじめる皆さんも、就職活動に集中しなければならない時期があるかと思いますが、意識を傾けすぎることには注意が必要かもしれません。

それでは、次回の特集もどうぞお楽しみに。

インタビュアー:三浦 美樹(キャリア支援室特任講師)
(2011年10月28日掲載)